雑誌「小説新潮」の2008年2月号に掲載された短編です。
とある屋敷に長年奉公していた、屋島守子。主家の財政が傾き、とうとう暇を出されることになります。
再就職先を斡旋してもらいますが、紹介されたのは山奥の避暑地・神垣内の別荘管理人。どちらかといえば都会派の守子には不満な職場環境でしたが、実際に建物を見て、その気持ちが大きく揺らぎます。
その別荘は、絶美の自然の中に技術の粋を凝らして建てられた、見るも鮮やかな逸品だったのです。
守子はその別荘を、心をこめて管理します。いつ、主家の人間が訪れても良いように。厳しい環境の中に建つ別荘が、劣化しないように。食料燃料、医薬にリネン、万事怠りなく整えます。深い雪に閉ざされる冬の間も、彼女はたった一人、別荘を守り続けたのです。
そうして一年が過ぎたころ、彼女はふと気づきます。……この一年というもの、ただの一度も、ただの一人も、客が訪れはしなかったことに。
悶々とする守子。そんなある日、彼女は別荘の近くで人影を見つけます。気を失い怪我を負って雪の中に伏せる男。彼はどうやら、遭難者のようでした。
屋島守子の、心をこめた看護が始まります。
「
身内に不幸がありまして」「
北の館の罪人」とは、ゆるやかなシリーズになっています。