秘密結社です


 こんにちは。米沢穂積です。
 ウォーミングアップは念入りにやりましょう。



 先日近況報告でお伝えしましたように、新作「さよなら妖怪」は私の手を離れました。図表などの補完的なやり取りも終わり、しばらくはS社様にお任せすることになります。

 それからしばらくというもの、私はゲームの三昧境にありました。次回作の傾向をどうするか、全く新しい話を書くならばどんな舞台を選ぶべきか、持ちネタを流用するならどれを使うべきか、これといったアイディアが浮かばなかったからです。
 もちろん、書店員たるもの本を売ることへの情熱に偽りがあってはなりません。出勤から退勤まではお客様に快く本をお買い上げいただくことに心を砕き、退勤から出勤まではどうすればより快くお客様に本をお買い上げいただけるのかに心を悩ませる、それこそが書店員の当然の心構えというものです。
 しかし店長閣下や同志副店長と異なり、私は未熟な一販売員に過ぎません。未熟ゆえ、昼時には一時間の休憩をいただくこととなっております。本来ならば休憩時間は、フロアを見まわって勤務中には気づかなかった細かな点でお客様にご不便をおかけしていないか、そのチェックに充てられるべきではあります。ですが私はその時間を専ら食事に充て、あるいはレクリエーションにさえ充てることがあるのです。後者の場合、当店から喫茶店を挟んだ隣にゲームセンターが建っているというのはまことにうってつけです。

 今日も今日とて休憩時間。シフトの関係で今日に限り、休憩時間は二時間が与えられました。たまたま胃を痛めていた私は、昼食を握り飯一つで済ませます。残り時間、どれ今日こそ新記録に挑んでみるかとゲームセンターに向かいました。
 ゲームセンターのゲーム、つまりアーケードゲームの新作は、地方にはなかなか出まわりません。利益の見込める生産量よりも、ゲームセンターの数の方が多いからです。この点、書店と相通じるところがあります。新刊も、売れる数より書店の数の方が多い、というのはよくあることなのです。そういう場合割を食うのは地方です。そんな構造的問題への愚痴建設的意見の交換がきっかけとなり、私はそのゲームセンターの主とは親しくお付き合いしています。

 さて、ところが。ゲームセンターに活気がありません。いえ、活気がないというよりも、不自然にひっそりとしているというべきでしょうか。近寄って私は、その原因に気づきました。店の窓にことごとく、暗幕が張られているのです。ダーティーなイメージを払拭し地域に溶け込むため開放的であろうとし続けていたこの店には、いかにも不釣合いな装飾です。さらに店の前には、主が腕を組んで仁王立ちしていました。不審に思いつつ、声をかけます。
「やあ、ゲーム屋」
 ゲーム屋とは、私が彼を呼ぶときの渾名です。ちなみに私は彼の本名を知りません。
 彼は私に気づくと、どこか苦々しげに返してきました。
「おう本屋」
 本屋とは彼が私を呼ぶときの渾名です。ちなみに彼は私の本名を知っています。当店では全店員は名札をつけて勤務することになっているからです。
「どうしたゲーム屋。暗幕なんか張って。上映会でもやってるのか」
 ゲーム屋は腕を組んだまま答えました。
「いや。今日は貸切なんだ。暗幕はお客様のご希望さ」
「そうか。休憩時間、ひと遊びさせてもらおうと思ったんだが」
「悪いな」
 貸切とあっては仕方がありません。おとなしく店に戻り、書店員の本分を尽くそうかと考える私でしたが、踵を返したところでふと疑問を覚えました。大体、ゲームセンターの貸切など聞いたことがありません。ある特定のゲームの腕をプレイヤー同士が競い合う、いわゆる「大会」が開かれるという話はよく聞きますが、それにしたって非参加者を締め切る必要などありません。ゲームセンターの貸切など、ありえないことです。
 たった一つの可能性を除いて。

 私は再度踵を返し、ゲーム屋に向き直ると何気なさを装って訊きました。
「ひょっとして」
「うん?」
「シェスタか?」
 ゲーム屋の顔色が変わりました。
 シェスタとは、何もスペイン語の昼寝のことではありません。シューティングゲーム・フェスティバルのことです。


 シューティングゲームをご存じない方々のために、若干の説明をしましょう。
 アーケードゲームを楽しむ人々の中にあって、シューティングゲームを専門に遊ぶ者は「シューター」と呼ばれ、特別視されます。古くインベーダーゲームに祖を持ち、ゼビウス・グラディウスにより世界を確立したシューティングゲームは、レバーで自機を操り敵弾を避け敵機を撃つという単純な遊びです。しかしその単純さゆえにシューティングゲームはプレイヤーにある種のストイックさを要求します。そしてそのストイックさは、シューターたちを閉鎖的に見せてしまうのです。格闘ゲームのようなコミュニケーション性も音楽ゲームのようなパフォーマンス性も持たず、店の片隅の照明の悪いところで、ひたすら己とスコアと敵弾に挑戦し続けるシューターたち。彼らはゲームセンターという小世界において、良く言っても特別視、悪く言ってしまえば異端視される存在なのです。古歌にある「焼き鳥も 秘密の山の 稼ぎかな ボム焚き明かす 短か捨てゲー」とは、バトルガレッガなる伝説のゲームにおいて、シューターたちが理解の出来ない行動を取ることを非シューターが皮肉ったものだといわれています。

 そうした閉鎖性はすぐに、排他性へと転化しました。シューターはシューターでないものを近づけず、また非シューターはシューターから離れていきます。少数派ゆえの弱さがシューターたちに団結を強い、シューティングゲーム特有の「稼ぎの秘密性」はシューター間にさえ徹底される秘密主義を育てました。ノーボムの美学、かすりのマゾヒズム。シューターたちの振る舞いは、あたかも秘密結社のそれであるかのようになっていきました。
 いまではシューターは外面からそうと知ることは困難ですし、その総数を把握することは誰にも出来ないでしょう。

 そのシューターたちが、年に一度、一堂に会する場があります。

 それがシェスタ。全国のどこかの店を貸切にし、基板を持ち寄ってその日だけは店一つをシューティングゲーム一色に染め上げるイベントです。シューター以外には決してその開催は知らされず、開催地・開催日時を記録することは厳に戒められています。その主催者は全シュ連とも革ボムとも言われますが、はっきりしたことはわかりません。また、わかったとしてもこうしてWebで公開することなど出来ないでしょう。


 シェスタの言葉を聞いたときの、ゲーム屋の顔色の変わり様。どんなに鈍い者でも、これはと思わないはずがありません。
「シェスタなんだな」
 ゲーム屋は諦めたように力なく頷きました。シューター以外にここがシェスタの会場だと知られたわけですから、主催者側の報復を恐れているのでしょう。しかし私は、彼を安心させられます。
「なあに落ち込むな。実は、言ったことはなかったが……。俺も、シューターなんだ。入れてくれるな」
「お前が、シューター?」
 意外の念に撃たれたようでしたが、ゲーム屋はすぐに気を取り直すと、到って真剣な声色でこう言いました。
「お前がシューターだというなら、入れてやるが。ううまま
 なるほど、確かにそういう処置は必要でしょう。私は答えます。
「うままう」
「うまう」
「うままう」
 彼はにやりと笑うと、左手を差し出してきました。私はその手を握ります。
「ようこそシェスタへ。歓迎するよ、本屋」

 陽の光を遮った店内は、一種異様な興奮に包まれていました。
 本来ならば花形であるはずの音楽ゲーム、プリクラの類は邪魔とばかりに隅に固められ、対戦格闘ゲームのために向かい合わせになった筐体の両側でそれぞれ違うシューティングゲームがかかっています。広くもない店内をひとまわりすると、大体の配置がわかってきました。入口近くに流行りの弾幕系が並び、それを挟み込むように高速弾パターン化系が置かれています。古きよき復活型が奥まったところに並び、それぞれのジャンルの境目になるように対戦型や反射ものなどの変り種が置かれています。

 プレイヤーはと見てみれば、その多くがマスクやつば広の帽子で顔を隠しています。ここにいるのはシューターだけとはいえ、普段の習慣でつい正体を隠したくなるのでしょう。あまりじろじろ観察するのはマナー違反とは思いましたが、それらプレイヤーの中に特に名を伏すべきさる高名な方も混じっていたように思います。
 それではプレイはといえば、これが案外拍子抜けするようなものでした。シューター界の名言に「Once a Shooter,Always a Shooter」と並んで「Every Shooter a scoarer」というものが伝わっています。なのに並ぶスコアはどれもこれも、ハイレベルではあるものの最高のものではないようです。しかし、思ったよりぱっとしないスコアばかりだな、と呟いた私に、門番を交代して私に付き合ってくれたゲーム屋が呆れたように言いました。
「当たり前だろ。こんなところで極意を見せたらスパり放題じゃないか」
 なるほど納得です。シューターはシューターにさえ、いえシューター相手だからこそ、手の内は用意には晒さないものでした。何人かのプレイを立ち見させてもらいましたが、使われるテクニックは「臨死」や「砲台繋ぎ」など、高度ではあっても既に広く知られたものばかりのようです。それでも、こなすべきことを確実にこなしいかなる弾幕にも狙撃にも眉一つ動かさずに対処する彼らのプレイは確かに一流でした。

 しかしまあ、私とてシューターの端くれ。見ているだけではつまりません。ちょうどライジング社の蒼穹紅蓮隊が空いていましたので、これなら時間つぶしには申し分ないと席に着きました。縦スクロール横画面というのは往々にしてシューターに嫌われる規格ですが、私はその辺には別段こだわりがないのです。
 ですが、何事も研磨しなければ錆びるのみ。全六ステージで悪くとも第五ステージまでは行ける腕を持っていたはずの私ですが、しばらくスティックを握らずにいる間にとんと勘が鈍っていました。第一ステージと第二ステージで一機ずつ落とされ、第三ステージであっけなくゲームオーバーです。やれやれ、と席を立ちかけましたが、折角の懐かしいゲーム、ゲームオーバー画面まで見届けようとそのまま座っていました。
 このゲーム、ゲームオーバーになると上達のためのワンポイントアドバイスが表示されることになっています。「追尾レーザーを使え」とか「敵が撃つ前に撃て」とか、そんなところです。さて、今回表示されたメッセージは……
 私は、目をむきました。
 そこには一文字ずつ、こう表示されていったのです。

「こ の 中 に 一 人 、 非 シ ュ ー タ ー が 、 い る」

 短い悲鳴が、私の背後から上がりました。びくりと跳ね上がるような思いで振り返ると、まだ若い女性シューターがメッセージの表示された画面を指差し、口許を押さえています。
「お告げよ、お告げだわっ。……ライジング様の霊が、私たちに警告してるのよ!」
 ライジング社はシューティングから撤退しただけで健在です。滅多なことを言わないように。
 などと暢気なことを言っている場合ではありません。突然の悲鳴になんだなんだと集まってきたシューターたちに、女はまくし立てるように事情を説明します。和やかな歓談は潮が引くように失せ、プレイ中だったシューターたちはスティックを握ることも忘れたようで、店内のあちこちから自機が失われる不吉な音が上がります。動揺の二字を忘れたようなシューターたちにして、この戸惑い、不審。無理もありません、シューターのみに許された祭典、シェスタによもや非シューターが。なんという理不尽、なんというおぞましさ!

 ちなみにお告げを疑うという選択肢はありません。信仰みたいなものですから悪しからず。

 疑いの目は、当然私に向きます。
「……非シューター……」
「……非シューターが……」
「お前が……」
 怒りと軽蔑に満ちた視線を店中から浴びせられ、背中に冷や汗が垂れるのを覚えます。しかし幸い、我が友は私を信じてくれました。
「いや、こいつはシューターだ。店長の俺が保証する」
「ゲーム屋……。すまん」
「お前が悪いんじゃあない。みんな、お告げがあったとき、こいつがたまたま台に座っていただけだ。そうだろう?」
 シューターたちは不安そうな顔を互いに見合わせます。

 やがて、人垣を割って、目深にフードを被った一団が歩み出てきます。周囲の反応から、さては主催者の一団だろうと見当がつきました。その中から一際背が低い、男とも女とも知れない者が、やはり男のものとも女のものともつかない声でゲーム屋に言いました。
「では、誰が非シューターだというのかね。君はこの店の責任者として、シューター以外は入れない義務を負っているはずだ。それとも君が非シューターかね」
「馬鹿な、名古屋撃ちの時代からのシューターになんて侮辱を! 大体、入口のチェックはあんたらでさえ受けさせたはずだ!」
 激しやすいゲーム屋は、はや声を荒らげています。なんとなく責任を感じた私は、両者の間に割って入りました。
「落ち着け、ゲーム屋。あの合言葉は有効だったかもしれんが、読唇術でもあれば盗めるよ。……あなたも、少し言葉が過ぎるんじゃないですか」
「…………」
 フードのシューターは、小さく頷きました。それがどんな意思表示だったのかは、わかりません。
「なあ。シェスタとはいえ、一人で来ている奴はそうは多くないんじゃないか。団体を組んで来ている奴もいるだろう。互いが互いを保証できるか、試してもらったらどうだ」
 ゲーム屋はなおも一団を睨みつけていましたが、やがて溜息をつき、私の提案を呑んでくれました。

 結果は、すぐに出ました。
 予想よりも多くの人が、団体で参加していました。全シュ連・革ボムの大手はもちろん、全国養蜂家連絡会・光2000・縦の会・SGLなどなど、そうとわかるとなかなか壮観です。また、団体での参加でなくても友人同士誘い合わせたという者も結構な数に上り、結局保証人を付けられないまったくの個人参加のシューターは、僅か三人という結果が出ました。
 この三人の中に、非シューターが……。その三人を取り囲む輪の中に、先ほどまで自身が疑われていたことも忘れ、私も加わります。

 まだ中学生ぐらいではなかろうかと思しき少年。これはふてぶてしく、拗ねたような表情で周りを見まわしています。いわく、
「そりゃ経験は浅いけど、シューターだよ。こういう新人いびりみたいなとこが、シューターのやなとこだよね」

 いかにも自主休講を活用してゲーセン通ってますといった風情の痩せぎすの青年。内心はどうか知りませんが、余裕ですよというアピールのようなわざとらしい笑みを浮かべています。いわく、
「そんなに上手くはないけど、そこのひと(私のことです)も似たような腕だったし」

 シューターであればそこそこ年季が入っているであろうサラリーマン風。これは泰然自若、ですがただ眠そうなだけにも見えます。いわく、
「やれやれ、友達も誘ったんだがな」

 三人とも、指にレバーだこはありません。
 非シューターにしてシェスタに侵入した者には、罰を与えねばなりません。しかし、どう見極めるか……。前例のない事態だったのでしょう、フードの一団も小声で相談を繰り返すばかりで、埒が明きそうにありません。
 入口のガラス戸は、非シューターの逃亡を防ぐため塞がれました。シェスタの掟を破った不埒者のことも気になりますが、腕時計を見てぎょっとしました。トラブルに時間をとられ、このままでは時間までに店にもどれなくなる可能性もあります。私は内心慌てました。遅刻など、書店員道不覚悟の最たるものです。シューター同胞の為はもとより、書店員としての本分を果たすためにもここは何とかせねばなりません。
 上手いこと非シューターを見分ける方法はないか。それも、手短に。私はしばし頭をひねり……、一計を案じました。
「くそっ。よりによって、俺の店でこんなトラブルが!」
 唇を噛むゲーム屋を店の隅に引っ張って、私は小声で言いました。
「なあ、ゲーム屋。エスプレイドだよ。あれを、使うんだ……」

以下は背景色で隠してあります。
これ以降は、シューターの方のみお進みください。

 ゲーム屋が進み出て、彼らに言いました。
「君たちには、ゲームをしてもらう」
 そして彼が指さした先。それはCAVE社製の、既に「往年の」が頭に付きかけた名作、「エスプレイド」です。
 戸惑い、反発する三人を無理矢理引っ張っていき、まずは推定中学生を台の前に立たせます。残りの二人には、プレイ内容を見られないように目隠しをします。
「このゲームの一面で、出来るだけ点数を稼いでもらう。一番点数の低かった者が、非シューターだ。但し、途中でゲームオーバーになった場合は、最初からとする」
 不承不承といった素振りを見せながらも、わかったよやればいいんだろ、と捨て台詞を残し、推定中学生はプレイを始めます。私たちは彼を幾重にも取り囲み、そのプレイを注視します。
 やがて彼はプレイを終えました。そして、推定大学生。
 彼は私を引き合いに出し、似たような腕と言いました。しかし、これだけは書いておきましょう。ことエスプレイドに限って言えば、私のほうが随分ましです。
 ゲームオーバー寸前まで追い詰められながら、彼もなんとか一面をクリアします。
 さて、最後の推定サラリーマン。
 彼が台に座り、スタートボタンを押した瞬間のことです。
 店中がざわめきと、敵意に満ちました。推定サラリーマンには、なにが起こったのかさえわからなかったに違いありません。周囲の反応に動揺しつつも、プレイを始めようとする推定サラリーマンの腕を、私は押さえました。
「何をするんだ」
 虚勢なのでしょう、思い切り睨みつけてくる彼に、私は言いました。
「あなたが、非シューターですね」
「まだ始めてもいないのに、勝手な」
 言い逃れをしようとする彼をよそに私は、1P側から出撃していく自機を指しました。
「1P側でゲームを始めましたね。左のスタートボタンを押した時点で、あなたが非シューターだということは私たち全員にわかったんですよ。エスプレイドで点数を稼ぐ場合、アイテムの数が多く敵のランクが最初から高い2P側で始める……。これは、シューターの常識です」

「ば、馬鹿な……」
 男は絶句しました。そして、口角泡を飛ばして反論してきます。
「そんな馬鹿な話があるかっ。そんなオチが……。仮にもミステリーを気取るなら、特殊な知識を解決に用いてはならないってのは鉄則だろう!」
 なにを言うのかと思えば、これまたメタな。余程上質なものならともかく、いまどきメタであるというだけで唸ってもらえるとでも思っているのでしょうかこのうすらとんかちは。私は非シューターであるところの彼をせせら笑います。
「これがミステリーと書いたことはありませんし、もしミステリーだとしても特殊な知識? そうですか?」
「当たり前だ、百人に聞けば九十九人までは知らんようなことを、オチに持ってきて」
「なるほど。ここには百人はいるでしょう。訊いてみましょうか。いまの事実を知っていた人は、手を上げてください」
 たちまち、にょきにょきと生えるように手が挙がってきます。もちろん私も挙げます。
「……どうやら、知らないのはあなただけのようです。ということは、特殊でない知識を知らなかったあなたの方が悪い、ということになりそうですね」
 しかし男は、激しく頭を振りました。
「そんな話が通るか! ここにいるのはシューターばかりじゃないか、こんな偏ったデータで一般特殊を決めるなんて」
「それで、いいんですよ」
「…………」
 私は、自信を持って、指を一本立てました。
「上を見てください」
「上……?」
 男は天井を見上げます。私は苦笑しました。
「そっちじゃありません。まあいいでしょう、引用してもいいんだから。上には、こうあるんですよ。そう……。
 以下は背景色で隠してあります。これ以降は、シューターの方のみお進みください。とね!
 わかりますか? オチはシューターしか読み得ないってことです。つまりシューターであるところの読者にとってそれは『特殊な知識』ではありません。ここまで来ている人間でシューターでないのは、世界の内にも外にもあなた一人なんですよ!」
 男の口があんぐりと空きます。そこからこれ以上負け惜しみが漏れないよう、私はわざと大袈裟に声を張り上げました。
「引っ立てい!」

 結果、私は無事に時間までに店に戻ることが出来ました。
 シェスタはその後、無事に閉幕を迎えたとゲーム屋が教えてくれました。礼を述べるゲーム屋に、私は笑って礼を言うのはこちらだと言いました。
「どういうことだ本屋。何でお前が礼を?」
「ああ。今日のことで思いついた。次回作のアイディアをな。
 秘技やスパイが横行する、シューター世界の虚虚実実の戦いを、紀田順一郎張りに描くのはどうだろう。秘技『2-5テクニカルダブル』はどうして漏れたのか? 東の名門と西の名門が誇りを賭けて全一を争う様を小説に仕上げるんだ。
 タイトルも思い浮かんでる。『アウターリミッツ/カウンターストップ』というのはどうだ?」
 ゲーム屋はしかし、浮かぬ顔で首をひねりました。
「ふうん……。S社ってのは、そういう話を出せるところなのか」
「出せるも何も、本家本元だ」
「本家? するとS社ってのは……」
 私は大きく頷きます。
「そう。新声社だよ」

 そして非シューターの男、どうやらとあるゲームキャラクターのファンだったようですが、彼は罰を受けています。
 私の行きつけのゲームセンターの奥、隔離された小部屋。彼は、緋蜂を破るまで、そこから出てくることは許されないのです。



 こんなことをしていていいのだろうか。もっと有効な時間の使い方があるのではないか。その自問が打ち消しても打ち消しても湧いてきます。

 ちなみに私がここ一週間ほどゲーム三昧だったのは事実です。「送り雛は瑠璃色に」「チョコレートナイト」と遊び倒して、さて次は「パンタクル1.01」か「展覧会の絵」か、と迷っているところです。


(07.05.12追記)
 最近、この「秘密結社です」の中に出てくるタームが検索ワードに上がることが多いので追記します。

「臨死」
『バトルガレッガ』で特に有名な技術です。
 バトルガレッガは、被弾してから自機が爆散しゲームオーバーになるまで、少し時間があります。このわずかな時間の中でも、スコアは入ります。そのスコアでエクステンドした場合、被弾してゲームオーバーになるかと思ったらエクステンドで生き延びた、という状況になります。
 これだけでしたらただのオモシロテクニックですが、「最後の一機が被弾した瞬間、コンテニュー用のアイテムがばら撒かれる」という仕様と重ねると、大変なことになります。大抵のシューティングで、ゲームーバー時に出現するアイテムはフルパワーアップやボムなど、強力なものです。
 つまり、「臨死」を使うことによって、ゲームオーバーになることなくゲームオーバー用のアイテムを取得することができるようになるわけです。
 この技術が威力を発揮するのは、2面です。上にも書きました「焼き鳥」という言葉は、2面の特定の場所でボム(バトルガレッガでは「ウェポン」と言われます)を使用した場合、大変な点数が入るという隠しボーナスを指します。
 通常、「焼き鳥」の場面で使用できるウェポンの回数は、どうあっても限りがあります。1面から回収してきたウェポンの総数が上限になりますから、当然です。ですが「臨死」によって出現したウェポンアイテムを使うことによって、その上限を超えてボーナスを得られるようになったのです。
 この技術は、偶然によって発見されました。後にこの技を意図的に使用したあるスコアラーは、その時点での常識を超えたスコアを目にして、思わず笑い出したと伝えられています。


「砲台繋ぎ」
『怒首領蜂大往生』での技術です。単に「4面全繋ぎ」と呼称されることの方が多いでしょう。
 怒首領蜂大往生には、「コンボ」というシステムがあります。自機の攻撃を切れ目なく敵に当て続けることで飛躍的にスコアが伸びるシステムです。
『首領蜂』、『怒首領蜂』ではそこまでクローズアップされることはなかったシステムですが、怒首領蜂大往生においてこのシステムはきわめて重要になりました。スコアラーたちは、1面、2面、3面と、ただの一瞬もコンボを切らせることなく、非スコアラーとはまさに桁が違うスコアを叩き出していったのです。
 そんなスコアラーたちも、当初、4面でコンボを切らさないことは不可能だと考えたようです。敵の攻撃が激しいからではありません。4面の中ボス、大きな砲台を撃破した後、次の敵が出てくるまでに、演出による時間的空白ができるからなのです。この時間的空白によって、かならずコンボは途切れるものと考えられていました。
 しかし、この難題にもまた、解決の道が残されていました。確かに砲台撃破後、しばらくは敵が出てきません。ですが、敵ではない背景の一部にレーザーを当て続けることによって、コンボの継続が可能であることが発見されたのです。
 スコアラーたちはこの技術の発見により、『怒首領蜂大往生』において、理論的にはゲーム開始からクリアまでコンボを継続させ得ることを知りました。そして、あの名高い「人の姿をした16億の戦い」に繋がっていくのです。


「テクニカルダブル」
『ストライカーズ1999』での技術です。「ダブルテクニカル」「テクニカル二重取り」などとも呼ばれます。
 彩京後期のシューティングには、「テクニカルボーナス」という仕様がありました。ボスが強力な攻撃を仕掛ける一瞬、コアが露わになります。ある程度接近してそのコアにダメージを与えると、ボスを一撃で撃破し、特別なボーナスが得られるというものです。
 これにより、彩京独特の「パターン化」の傾向はいっそう強まり、コア露出の瞬間までを如何に耐えどのようにしてコアを撃破するか、が、スコアラーにとってのボス戦の戦い方となりました。
 しかし、このシステムに、驚くべき特徴があることが後に判明します。
 テクニカルボーナスを得るためには、コアを一発撃たなければなりません。このとき、コアとは別に、ボス本体にもショット一発分のダメージが入ります。このショットでコアを破壊し、同時にボス本体の耐久力もゼロにした場合、どうなるか。
 実は「通常のボス破壊得点」と「コア破壊によるテクニカルボーナス」が、両方カウントされるのです。
 もともと彩京のゲームは点数にあまり倍率がかからないため、未曾有の高得点というものは得られにくい仕組みになっています。ですがこの「テクニカルダブル」の発見により、ストライカーズ1999のスコア理論値は跳ね上がりました。絶妙のダメージコントロールと完璧なパターン化のみが、「テクニカルダブル」を可能にするのです。


「名古屋撃ち」
『スペースインベーダー』での技術です。
 ぐぐってください。