今年の総括です
こんにちは。米澤です。
先日街を歩いていましたら、電器店の前で法被を着た女の子が二人、手を繋いで踊って歌っていました。
時期はクリスマスで、時刻は夕暮れでした。
冷え込みは厳しく、関東平野を吹く風は意外と冷たくて、私もコートの前を合わせていました。
その電器店があったあたりは以前はメインストリームだったのですが、最近ひとの流れが変わって、いまでは寂しい裏通りになってしまっています。
誰も、正確には私以外誰も通っていないのに、チラシを配るために店の前に立ち尽くす厳しいお仕事……。
それなのに電器店のイメージソングは果てしなく明るく、二人が着込んでいる法被の赤も目にまぶしいほどなのです。
その二人、きっと、なんだか楽しくなってしまったのでしょう。……気持ちはよくわかります。
歌い踊る女の子二人に逆説的な悲哀を感じつつ、年末の街を歩き続けました。
さて、12月なので今年の総括です。
今年出させていただいた本は、二冊。
え、二冊……?
……『春期限定いちごタルト事件』は去年の12月ですから、間違いないですね。『クドリャフカの順番』と『犬はどこだ』の二冊だけです。
大雑把に分けますと、
1)書きまくった1〜3月
2)引っ越しと基盤作りの4〜5月
3)広宣の6〜8月
4)ブレーキの9〜10月
5)書きまくった11〜12月
といった感じでしょうか。
8・9・10月が惜しいですね。10月は概ね寝込んでいたようなものでしたからともかくとしましても、8・9月にもっと書けていればと悔やまれます。別に遊んでいたわけじゃないんですが、まあ、ちょっと、いろいろと……。
この点、悔いが残ります。時間を使った分、その原稿がいいものに仕上がることを願うしかありません。願っても仕方ないか。いいものにします。
また、今年は『犬はどこだ』が思いがけず『このミステリーがすごい!』のベスト10にランクインし、『このミス』を初めとして幾つかのインタビューも受けさせていただきました。大変に、ありがたいことです。
来年が、岐路ですね。
気を引き締めていきます。
では、皆様、今年もありがとうございました。
(05.12.30)
リニューアルです
こんにちは。米澤です。
一仕事終わりましたので、ずっと気になっていたサイトリニューアルを行いました。
二日で済んでしまいました。一旦取り掛かかってしまえば、こんなもんですね……。
ところどころディレクトリ構造やファイル名を変更したので、リンク切れが起きているかもしれません。また、動作確認はIE(というかsleipnir)でしか行っていないため、他のブラウザでは見えづらい・見えないということがあるかもしれません。そのような場合はご連絡いただければありがたく思います。
バナー作成は今回も見送りです。
次の仕事に取り掛かる前に、一週間ほど休もうと思っています。読みたい本も読まなければいけない本も溜まっています。それなのに新しく本を買ってくるのは、まあお約束で。
久しぶりにゲームもやろうと思いましたが、こんな浮き立った季節に殺伐としたシューティングゲームではすさんでしまいます。こんな時期は神さまが奇跡を起こしてくれるようなほのぼのしたゲームに浸りたいと考え、
これを買ってきました。さっそく海の神さまと愛の神さまが力を貸してくれました。心あたたまりますね。力を貸してもらえなかったアテネ市民の人々が画面の隅っこでゴミのように潰されていくのが少し気になりますが。
出かけられるようになったので、靴を新調しました。
去年までは、靴のソールは必ず厚め、ソールパターンもしっかり刻まれたものしか買えませんでした。雪が降ったとき、平らな靴底では身体の危険を招く恐れさえあるからです。
いま、私は雪がほとんど降らない地域に住んでいます。ですので、滑りやすさはあまり考慮しなくてもいいのですが……。
それでも靴底が薄く平らなものは自動的に却下してしまうのは、まあ習い性ですね。
ミステリ用語では心理的不可能性と言います。
私が死んだ時、死体が底が平らな靴を履いていたら、名探偵の出番ということです。
(05.12.25)
主な変更点は以下の通りです。
・カスケーディングスタイルシートの全面導入:といいましても、ネット上で配布されていたデザインをお借りしただけです。配布元についてはリンクしてあります
・メールフォームの新設:まあ、頁を立てるまでもないといままでトップページに置いていたのですが、結構間違って送付されてくることが多かったので
・リンクの整理:カテゴリー「同業者」を削りました。ネットのリンクは微妙な問題で、常に「あの人がリンクしてあるのにどうしてこの人は」となりがちです。まして同業者間では仕事に絡みますから、将来を鑑みて同業者にはリンクを張らないことにしました
CIWSです
こんにちは。米澤です。
トーハン(トーハンは本の問屋です)の雑誌『新刊ニュース』で、出版関係者に今年読んだ本の中からベスト3を選ばせて並べるという企画がありました。ご縁がありまして今回、それに寄稿させていただいたのですが。
さすがにトーハン(トーハンは本の問屋です)、ラインナップがすごい。作家のみならず映画監督や落語家から、幅広い層から「今年の三冊」が集まっていまして目をみはります。ランキング集計をするわけではありませんし、書店に配布される小冊子みたいな雑誌ですので、皆さん割と思い思いの一冊を挙げておられるようでした。こうして知られていない本を掘り起こし、需要につなげようというのが企画の主旨でしょう。
しかしそんな『新刊ニュース』で、私は失敗をしてしまいました。
三冊のうち二冊までは新刊だったので別に問題はなかったのですが、残りの一冊に。
燦然と輝く「品切中」の文字(
トーハンは本の問屋です)。
あ、しまっ、ごめ、そんなつもりは……。
……来年もよろしくお願いします。
それとは全く関係ありませんが、先日、知人から電話がありまして。
その電話の中で訊かれたのが、
「CIWSって何の略か知ってる?」
という質問。
だからなぜ私がそれを知っていると思うのか、むしろそっちを訊きたいものです。
「CIWSってあれだろ、ファランクスとか、ゲートキーパーとか」
「そうそう」
「船に載せて飛んできたミサイルを落とす機関砲。アホみたいに発射速度が速い」
「そう、それはわかる。で、何の略?」
知りませんでした。ですが単に知らないとだけ答えるのも味気ないもの。いろいろと考え、ようやく結論に辿り着きます。
「CIWSな。あれだ」
「お、やっぱり知ってたか」
「おうまかせろ。ずばりこうだ」
"Christmas"nanoni Ie ni komotteru Wakate Sakka
「へえそうか。それでどうやってミサイルを落とすんだ」
「頑張るんだよ! 頑張って念じるんだ! 頑張ればできないことは何もないんだ!」
ちなみに正解はClose In Weapon Systemです。「近接防御システム」と憶えていたので「Weapon」に思い至りませんでした。
では、ケーキ買いに行ってきます。一人分な。
(05.12.20)
(12.24追記)な、なぜだッ! なぜケーキがホールサイズでしか売っていない!?
人馴れすべきです
こんにちは。米澤です。
ふっ、一ヶ月で○○ページとは俺も衰えたもんだぜ……。
などと嘯いても原稿は進みません。まだ行けます。原稿完成後、具体的には今月二十五日前後に計画倒産的にぶっ倒れる予定でgoes onです。
昨今あまり外に出ませんので、会話の機会がなくて困ります。先日など、近所のスーパーマーケットのチェッカーのお姉さんが優しい声をかけてくれたのにうっかり落涙するところでした。
こちらの袋をお使いになると便利ですよ、とお姉さんが声をかけてくれたから
今日は他人(ひと)と話せた日◎(にじゅうまる)
短歌を詠んだような気がしましたが五でも七でもありません。残念です。ちなみに「話した」といっても私の発言は「はあ、どうも」だけです。
まあ、あれです。もっと人馴れすべきです。今年は計画倒産で終わる予定ですから、来年は頑張ることとしましょう。
(05.12.10)
非常にまずいです
こんにちは。米澤です。
今月末までというお約束をしている原稿があるのですが、諸般の事情から締切が思ったよりも早かった+必要な枚数が思ったより多かった+出かける用事が思ったより増えたというトリプルコンビネーションが入りまして防戦一方のラウンドとなっています。非常にまずいです。
しかしまあ、慌てることはありません。落ち着きましょう。冷静に。クールにいこうぜ。これぐらいのことは以前にもありました。いま有ることは全て過去に有ったことです。となりますと未来にも有るだろうことということになります。
それは困る。
昔から良く知っている年下の異性の知人が現在の私の居所を訪れました。昔から(略)とはいえ客は客。丁重に扱いました。
畳敷き六畳間、全て機能的にデザインされた我が策源をひとしきり観察した後、哀れむような目つきとともに発せられたコメントは、
「一人暮らし、不便そうだね」
人の部屋を見てまずそれか。不便なく暮らしておりますが。失敬なヤツめ、けえれ!
(05.11.20)
まずいです
こんにちは。米澤です。
近所にラーメン屋があるんですが、これが非常にまずいのです。
身も蓋もない話ですみません。
この店は、私が現住所に引っ越してきた後で開店しました。引っ越しは今年の四月ですから、店が開いてからさほど間がないことになります。
開店直後、私はこの店でラーメンを食べ、あまりのまずさにがっくりしながら帰ってきました。ですが、店を開けたばかりで店員が作業に慣れていないということもあるだろうと、決定的に見切ることはしませんでした。
しばらくしてから、もう一度試してみました。……残念ながら、とても食べきれないまずさということに変わりはありませんでした。
その頃には既に、この店があまり良くないことはこの界隈に知れ渡っていたのでしょう。開店から一ヶ月も経っていないのに、店は閑古鳥が鳴きっぱなしでした。
無理もありません。どう考えてもまずいのですから。
しかし、それでも私はなんとかなるのではと考えていました。ごく当たり前の味さえ出せていないのには、何か根本的な原因があるのでしょう。店主がじっと自らの味と向かい合い、それを高めようと考えれば、元がひどいこともあって目をみはる改善が行われるかもしれないからです。
店先には、開店を祝う人々が店主を囲んでいる写真が掲げられています。皆、笑顔です。新しい店を開くというのは冒険に違いありません。店主は、そしてそれを支えた人々は、不安の中にも希望を見出したからこそ店を開いたのです。私はその店が軌道に乗ることを祈っていました。あまりにまずすぎて、かえって見捨てるに忍びなかったということもあるかもしれません。
そして、先日のことです。
相変わらず閑古鳥が鳴きっぱなしで、さすがにそろそろ持たないのではと思われるラーメン屋の店頭には、結構前から「炒飯セット」や「回鍋肉セット」「味噌ラーメン」の張り紙が見られるようになっていました。
その日、私はタイ料理屋に行くつもりでした。そこのパッタイがうまいのです。ですがあいにくの定休日。その他にも中華料理屋にも蕎麦屋にもふられた私は、久しぶりにそのラーメン屋を試してみようと思いました。あれから随分と経ちました。もしかしたらおいしくなっているかもしれない。
オーダーは、炒飯と味噌ラーメン。これには考えあってのことです。味噌ラーメンをまずく作るのは難しいのです。味噌汁に中華麺をつっこむだけでも、それなりに食えるものになるのですから。
しかし……。
オーダーを受けた店主は、店の手伝いの中年女性と談笑しながら料理にかかりました。話しながら料理するという時点でかなりアウトです。
私は厨房を見ていました。炒飯のごはんは冷ごはんでした。それ自体は別に悪くはありません。が、店主は中華鍋にたっぷりとサラダ油を注ぐと、ほとんどすぐごはんを鍋に入れたのです。そして、お玉で鍋肌にごはんをぎゅうぎゅうと押しつけ始めました。私は眉を寄せました。確かに中華料理屋で厨房を観察すると、鍋肌にごはんを押しつける料理法はしばしば見かけます。しかし店主のお玉には明らかに力が入りすぎです。そして……。充分に熱せられていない油に冷たいものを入れ、そのまま熱を加え続ければどうなるでしょう?
答えは見るも無残な形で私の前に出されました。たっぷりと油を吸ったごはん。ところどころ飯粒が押しつぶされて、糊状になっています。そして味がしません。私はそんなに濃い味つけが好きなわけではありませんが、これは明らかに塩気が足りない。
味噌ラーメンもひどいものでした。中華麺は小麦粉から出来ていますから、茹でただけでも食べることは出来ます。しかしその味噌ラーメンのスープを絡めると、食べられなくなるのです。ほとんど味のない、だしも効いていない、ぬるま湯に漬かった中華麺。味噌汁以下どころの騒ぎではありません。塩を振りかけただけの方が、まだマシでしたでしょう。
私はその(900円の)食事を進めながら、内心怒りを抑えきれずにいました。
炒飯を上々に仕上げるのは難しいことだというのはわかります。私だって炒飯はうまく作れない。ですが、手順さえ守れば、そこそこの出来栄えにすることは簡単なはずです。業務用の火力が味方についているのですから、なおさら。
店主は、自分の炒飯がとてもお金を取れる出来でないことに気づいていないのでしょうか。ほんの一口食べれば、それ自体には罪のない米飯と野菜と肉とを混ぜ合わせて自分が生ごみを作り出してしまったことに気づくでしょうに。客に食わせるものです。もっと細心であっていい。そして、彼は自らを訓練すべきなのです。ごく僅かな勉強で、炒飯をおいしく作るコツなんてものは1ダースも集まるでしょう。そしてほんの数回(数十回じゃありません!)の練習で、いまよりもはるかに良いものが出せるでしょう。
たったそれだけのことをせず、へらへらと笑いながら鍋を扱い、いっぱしの料金を取る。私は、写真の笑顔に免じてこの店の成功を祈った自分がいかにバカだったか思い知りました。成功などするはずがない。この店のまずさには根本的な原因がある。
店主の甘さが、それです。
およそ客に対してエンタテインメントを提供しようというのに、自分の提供できるものがそれに値するか省みることもせず、漫然と形だけ真似て事足れりとする怠慢。腕を磨くことさえせず、炒飯だの味噌ラーメンだの回鍋肉だのと目先を変えることがサービスになると考えている浅はかさ。読者……、じゃなかった、客がなぜ自分の店につかないのか彼にはわからないのでしょうか? この店の場所が悪い、ぐらいの責任転嫁はしていそうです。ですが勿論問題はそこにはない。料理というスキルそのものに敬意を払わない彼に、どうして料理で金を払う人間がつくでしょう(私は都合四回払いましたが)。どうしてここまでサービスというものを舐められるのか。客が怖いと思わないのか。金が恐ろしくないのか。こんな甘ちゃんに力を貸した、写真の中の笑顔の人々こそいい面の皮です。
そして、この店主のような人間は決して稀ではないというのが、またなんともいえないところです。丸坊主とスポーツ刈りの区別のつかない床屋というのもいました。握り飯に刺身を乗せてきた寿司屋もいました。彼らはみな看板を掲げ、専門家のような顔をして店に居座っているのです。
以降、私はその店に閑古鳥が鳴いているのを見ても気の毒に思わなくなりました。
代価に見合うサービスを提供できない、そうする意思もないプロフェッショナルなど潰れてしまえばいい。目障りです。客がついているところを見ると客を哀れんでしまうような、そんなプロは存在するだけで害悪です。
ふぅ。
……さすがにこれ以上は、自戒を越えて自虐になりかねません。この辺にしておきましょう。
要するに、おいしい炒飯が食べたいなということです。
(05.11.10)
不良です
こんにちは。米澤です。
家にこもって、どうも思うように進まない原稿に取っ組みながら料理をしたり洗濯をしたりと、あまり起伏のない十日間を過ごしておりました。
テレビが故障したため映像メディアのない日々を送っておりますが、もともとテレビはあまり見ませんし、仕事が遅れているのでゲームにも触らないようにしています。ですので生活上あまり支障はありません。
どうでもいいですがこのテレビ、初期不良(D端子で接続すると赤色が落ちる)だったものを交換してもらったものなんですが、半年ほどでまたしても故障とはちょっといかがなものでしょうか。目のつけどころが鋭くなかったのでしょうか。
久しぶりに編集者の方とお会いしたところ、開口一番「大丈夫ですか?」と訊かれてしまいました。いやいやあなたこそ先週風邪で臥せっていたでしょう、大丈夫ですかは私のセリフです、と笑顔でかわしましたが、編集者氏いわく「私のは病気でしたが、米澤さんはなんか人生後ろ向きなオーラが出てますよ」。
まあ、このところその手の薬を飲んでましたから。しかし一目でわかるほど雰囲気が沈み込んでいるというのではちょっとよくありません。薬は断つとしましょう。
どうせもう残っていませんし。
もう十一月ですか。早いものですね。
今年は暖かな秋でしたが、萩の花はさすがにもう終わってしまったでしょうね。ちょっと、散歩に出てきます。
(05.10.30)
で、結局「他製品で同様の症状が確認できたため修理せず返却」となりました。私は別に画質にうるさい方ではありませんので、通常使用に差し支えるレベルの歪みが出るので修理をお願いしたのですが、これはつまり「通常使用に差し支えるほど画面が歪むのが当社製品の仕様です」ということでしょうか。目のつけどころが(以下略)
話しました
こんにちは。米澤です。
座談会のお話とインタビューのお話を頂きました。
座談会は、『ミステリマガジン』誌で、『ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?』連載90回記念座談会。
インタビューは、『このミステリーがすごい!』です。
私も一人のミステリファンです。ひっくり返りそうになりました。と言いますかひっくり返りました。ついでにぎゃふんと言っておきました。泡も食っておけばよかったでしょうか。
というわけでいろいろ話してきたわけですが。
座談会の感想を一言。
き、緊張して言葉が出ねぇ……。
ゲームとしての本格ミステリについて何か口走ったような記憶がありますが。長患いで弱っている胃に、この緊張は強烈なブロウでした。
インタビューの感想を一言。
街中でそんなに写真撮らなくても……。
プロのカメラマンの方に写真を撮っていただくたび、申し訳ない気分になります。普段はもっと綺麗なものを撮っているんだろうになあ、と。
このようなお話を頂けるのも読者の皆様のご支持があったればこそと感謝しておりますが……。
いったいこれは何の罠だったんだろう、どうオチがつくんだろうと首をひねっているのも、事実です。
(05.10.20)
ちなみに座談会の他の参加者は、北山猛邦さんと辻村深月さんでした。
情けないことに長患いの真っ最中の収録となり、小粋なジョークの一つも飛ばせやしませんでした……。
ワシントンです
こんにちは。米澤です。
連休で流通のスケジュールがずれて、『ミステリーズ! vol.13』はもう店頭に出まわっているようです。<小市民>シリーズの短篇『シャルロットだけはぼくのもの』が収録されていますので、よろしければ手に取ってみてください。今回は倒叙ですので、ちょっと普段とは味わいが違うかと思いますが。
その他にもミステリーズ!短篇賞受賞作がまるごと掲載されていたり桜庭一樹さんのエッセイが載っていたりと、今回はなかなか盛りだくさんです。
さて。
冷蔵庫の中に長ネギ、ピーマン、ニラ。こいつをいっぺんに片づけるにはどうすればいいか考え、キャベツと豚肉を足して回鍋肉を作ることにしました。
小雨が降る中、近所のスーパーに向かったところ、男の子と女の子、それにその母と思しき女性の三人連れとすれ違いました。雨の中だというのに男の子はやたら元気で、母と思しき女性にしきりにこう呼びかけていました。
「ワシントン! ワシントン!」
女性はその連呼に、根負けしたように苦笑を浮かべながら答えました。
「うん、ワシントンなら出てもいいよ」
ワシントンなら出てもいい?
あまりにも意味不明です。
ワシントンといってすぐに思い出すのは、ワシントンD.C.、そしてワシントン州。ですが東京の西のはずれで、まだ小学校にも上がっていないと思われる男の子が連邦特別区の話をするとも思えません。
であれば、ワシントンホテル、またはワシントン靴店のことでしょうか? ワシントンホテルまでなら出かけてもいい……。なるほど、休日ですから、お出かけ先をおねだりしたというのもありえそうです。しかし、ワシントン靴店行きをねだるアンダーティーンというのはあまりにシュール。まあ、なくはないでしょうが。
いろいろ考えながら買い物を終了。帰りながら可能性を考えます。
「ワシントンなら出てもいい」という言葉は、ワシントン以外に却下された選択肢が存在していることを示唆します。それが何なのかわかれば考察は一挙に進むのですが、既に件の三人組はどこへ行ったやら。これでは材料が少なすぎて、ニッキー・ウォルトを気取ることもできません。
それとも、わたしの聞き違いでしょうか。ワシントンという言葉は間違いありませんが、その後。あるいは……、「ワシントンなら出してもいい」とか。
出ることの出来るワシントンといいますと、ノースカロライナ級、第三次ソロモン沖海戦で霧島を一蹴したことで知られる戦艦ワシントン。あの親子は小雨降りしきる中、机上演習の話でもしていたのでしょうか。それとも
あ、ご飯が炊けました。
ワシントンより回鍋肉の方が重要ですので、今日はこの辺で失礼します。
(05.10.10)
「ワシントン」は他の名詞でもいいのでしょうが、「出てもいい」という許可はどう考えても奇妙です。私も二十数年日本語を使ってきましたが、自分のことならともかく他人のことで「出てもいい」という言葉を使うのはおかしい……。
などと思っていたらキャベツに火を通しすぎ、水を出してしまいました。なんてこった、せっかくの回鍋肉が台無しです!
臥せっています
布団の国からこんにちは。米澤です。
風邪を引いたので飯も食わずにいたところ、低血糖で動けなくなってしまいました。前にこの状態になったのは確か8年前……。この脱力感、随分と懐かしい。なんとか這って砂糖壺に辿り着き、白砂糖を舐めていまはキーボードを打てるぐらいにはなりました。
今日は本を読んで大人しくしています。ではまた。
(05.09.30)
一週間近く悪化したり快方に向かったりを繰り返し、やっとまともに動けるようになったと思ったら、ポストに国勢調査表が入っていました。なになに……。
「9月24日から30日までの一週間に実際に仕事(副業・内職などを含む)をした時間の合計を書いてください」
ぐふっ。
月を見ました
こんにちは。米澤です。
お忘れの方も多いと思いますが、去る18日は十五夜でした。幸い私の住む地域はよく晴れましたので、月を見ようと湯呑を片手に外に出ました。十五夜だと気づくのが遅かったせいで月はほぼ南中、ほとんど真上を見上げながらの月見となりました。
「二十何年も見ていれば飽きそうなもんだが、やっぱり綺麗は綺麗だねえ」
「うーん、千々にものこそかなしけれ」
「月で思い出したけど、萩がそろそろ咲くんじゃないかな」
「そういえば春に出かけた六義園に萩があったなぁ。行ってみるか」
「いやあ、まだ暑いからねえ。開花がずれこんでるんじゃないか」
「それはともかく、こうも月が高いと『月を見ながら一杯』とはいかないね。真上を向いてちゃ、なんにも飲めない」
「月見で一杯。五十点だっけ?」
「ローカルルールが多すぎてよくわからんよ」
「ススキがないと寂しい気もするね」
「ススキに対するセイタカアワダチソウの侵略はものすごいものがあるからなあ。文化保護事業としてセイタカアワダチソウはなんとか駆逐するべきだね」
「運動でもするか?」
「冗談」
「首が疲れた。このへんで切り上げようか」
道路の真ん中で上を向いてる私の横を、警邏中のパトカーが行きすぎました。
原稿書きます。
(05.09.20)
帰ってきました
こんにちは。米澤です。
盆に帰省できなかったので、じいさんに線香の一本もあげてこようかと帰省していました。ついでに、万博も覗いてくる計画です。
今年の春の引越の際、東京に持っていく本はかなり厳選しました。実家にはその選に漏れた本が積まれているわけですが、見てしまうとどうもいけません。あれもこれも持っていきたくなるので、目の届かないところに隠しました。
あと、足を棒にして新宿中を探しまわった資料が故郷の小さな書店に普通に並んでいました。
万博に行く準備をしていたところ、実家の近くに住む、昔から良く知っている年下の異性の知人に訊かれました。
「おにい、万博行くの?」
「ああ」
「一人で?」
お前までがそれを言うか。
万博は混雑が酷くてなにがなんだか。イギリス館やドイツ館に入れるとは思っていませんでしたがスイス館やサウジアラビア館までが大行列。クロアチア館が四十分待ちとはこれいかに、です。クロアチアに関して言えば先日の世界ふしぎ発見だったか世界遺産の番組だったかでドゥブロブニクを紹介していたそうなので、その関係かもしれません。余計なことを。
みやげ物としてネクタイを売っていました。クロアチアはネクタイ発祥の地だそうです。裏は取っていませんので信じる信じないはお任せします。セルビア館がなかったのは残念でした。出展していれば、きっとみやげ物はフォークだったでしょう。
日本企業のパビリオンには行けませんでした。16時からの整理券配布に10時半の時点で長蛇の列。私の押井守に対する愛はそこまで深くありません。
そんなわけで別段なにを見たということもなく、散歩をしに行ったようなものでした。
名古屋駅から新幹線で東京に戻ることになりますので、その前に、お世話になった三省堂書店名古屋高島屋店さんにご挨拶に行きました。
「先日はどうもお世話さまでした。万博の帰りなので薄汚れていますが、ご容赦ください」
「万博ですか。お一人で行かれたんですか?」
それはもう聞き飽きた、と思ったのが甘かったです。三省堂書店の方は笑顔でこう続けました。
「大丈夫です! 三十歳からが勝負ですよ!」
な、何の?
大体、それじゃまだ数年は勝負にならないことに……。
さて。
先日、
綾辻行人データベースAyalistの管理人mihoroさんが拙作『クドリャフカの順番』の紹介フラッシュを作ってくださいました。
こういうことは初めてですので、驚き、かつ大変嬉しく思いました。mihoroさんから転載のご許可を頂いたので、このサイトにもアップロードしました。ご紹介します。
『クドリャフカの順番』予告編
mihoroさん、本当にありがとうございました。
(05.09.10)
うっかりしました
こんにちは。米澤です。
ありのままに昨日起きたことを話します。
『夏物在庫一掃セールで半袖シャツを買って、帰ってきて広げたら長袖シャツだった』
何でそんなことになったのかわからないと思いますが、私も何でそんな買い間違いをしたのかわかりません。頭がどうにかなりそうでした。サイズ違いとか除外品とかそんなチャチなものでは断じてありません。もっと間の抜けたミスの片鱗を味わいました。
おしゃれな喫茶店に入りました。一人で。
ケーキセットを頼み、お目当てのケーキをスプーンとフォークで分析し、構造を調べました。
週末の吉祥寺だったので、まわりの席にはおしゃれなおねえさんばかりでした。
つらい取材でした。
ついでに、その店に鞄を忘れました。
一人でと言えば、一人で部屋で作業をしているとついつい集中が乱れがちです。コンシューマゲームで遊ぶのはいい気晴らしですが、あまり熱中しすぎて時間を使いすぎてはいけません。そこでシューティングゲームというのはいい選択ですし、眼が疲れていてシューティングに耐えられない時はカルドセプトを遊びます。
そうひとに話したところ、
「カルドセプト!? まだやっているんですか?」
と驚かれてしまいました。私は胸を張って頷きました。
「そうですか……。まだやっているんですか」
「ええ!」
「ずっと一人で?」
余計なお世話です。
……九月に入ったら万博でも見に行こうかと思っています。
(05.08.20)
胸を焦がしました
こんにちは。米澤です。
とうとう中華鍋を買いました。早速空焼きして錆止め塗料を浮かし、金たわしでこすって剥がした後、じっくり油を馴染ませました。
ものが鉄だけに、ちょっと手入れを怠るとすぐ錆が出ます。中華鍋そのものは別に高い買い物ではありませんが、これを買うということは今後その手入れを続けていくということ、ひいては料理道に邁進するということを意味しています。それだけになかなか購入に踏み切れなかったのですが……。とうとう、買ってしまいました。
このところの暑さで少々暑気あたりしておりまして、あまり食欲はなかったのですが、これからの生活の友となる中華鍋の威力を存分に味わいたくまずは青椒牛肉を作ってみました。
いやしかし、さすがに鉄の熱伝導効率は半端ではないですね。一瞬で火が通ります。テフロン加工のフライパンでは塗装が剥がれるのが怖くてお玉を存分に振るうことが出来ませんでしたが、鉄鍋ならその心配も無用。油通しをしていないため満足いく旨さにはなりませんでしたが、これはこれからが楽しみです。
ですが、弱っているのに青椒牛肉は少々重かったようです。翌日、全く食欲がなくなりました。
こんなときは軽く蕎麦でもすすっていたいものですが、私にはどうしてもやらねばならない取材がありました。
ケーキを食べることです。
それも、五個。
食欲がないからといって数を減らすわけにはいきません。どうしても五個食べなければならないのです。朝のうちに胃薬を飲み、昼過ぎまで待ってケーキ屋に出向きましたが、やはりそう簡単に復調するわけもなく、大変な悪コンディションの中での試食と相成りました。
いや、本当はケーキを「買う」ことに主眼があるのであって、「食べる」ことは買ったケーキの始末法に過ぎないのですが……。ですが、ねえ。食べ物は粗末には出来ませんので。
余程ひとに手伝ってもらおうかと思いましたが、あいにく心当たりがありませんで。涙を流しながら何とか食べきったはいいものの、その夜から胸を熱く焦がすことになってしまいました。
つらい取材でした。
作品に生かしたいものです。
(05.08.10)
ちなみに短篇『シャルロットだけはぼくのもの』のための取材です。
殺人予告を受けました
こんにちは。米澤です。
誕生日にケーキを買っていったら殺すと言われました。
あ、別に誕生日にケーキを買っていくことが目的だったのではなく、カステラを差し上げようとしていたのですが。
いえ、差し上げるといいましても別に自腹で買ったものではないのです。
OK。落ち着きましょう。最初から話します。
先のサイン会終了後、紀伊國屋書店新宿南店様から陣中見舞いとしてカステラを一棹頂戴しました。
カステラは好きな菓子です(ちなみに嫌いな菓子はマシュマロです。あと、まんじゅうと熱いお茶が怖いです)。ありがたく頂きましたが、なにせものがカステラですのであまり消費期限に余裕がありません。一棹といいましても結構大きなカステラでして、ちょっと一人では食べ切れそうにありませんでした。
そこで、どなたかにおすそ分けしようと思いましたが、なにせこの春に引っ越してきたばかりであまり知り合いは多くありません。近々私は新宿で仕事の話をすることになっていましたので、その近辺に住んでいて、平日に家にいて、カステラを喜びそうな人といえばお一人しか思い当たりませんでした。
というわけで
桜庭一樹さんに連絡を取ったのですが、そのときの返事が「ありがとうございます。あと明日誕生日です」でした。
そうか誕生日なのかそれは一つ気でも利かせておこうと、仕事の話終了後にケーキ屋に入りまして(男子禁制のフロアがある不思議な店です)、ケーキをカステラの邪魔にならない程度に買い込みました。
そして現れた桜庭さんにカステラとケーキを渡したのですが、台詞がふるっています。「ありがとう、何かくれると思ってた」と。
誕生日発言はモノをせしめるための伏線だったようです。悪女?
で、折角ですので少しお話させていただくことになりました。
「『クロノス・ジョウンター』を純愛に使うなんてもったいない。時を越えて一族に復讐し続けるとか、そういう建設的な方向に使うべきだ」とか、「モデルになった国はリヒテンシュタイン公国、じゃなくてサン・マリノ共和国、でもなくてスイスとイタリアの近くの、ほら、あの国」とか、「あんな破滅の予感に満ちた物語をキャラクター優先で読めるものか」とか心あたたまる会話をしているうちに、話が詩人の穂村弘氏のことに及びました。
大変に熱を込めて、桜庭さんは穂村氏への愛の深さを語りました。なんでも桜庭さんの代表作の一つ『推定少女』には、穂村氏の短歌が引用されているそうです。申し訳ないことに気づきませんでしたが。私はその話を頷いて聞いていたのですが、その相槌のつもりで一言漏らしてしまったのが運の尽きでした。
「穂村弘氏でしたら、私、書評をいただいたことがありますよ」
「え?」
「新聞で
(一応書いておきますと、2005年1月16日の朝日新聞です)」
桜庭さんは一瞬錯乱しましたが、やがて冷静さを取り戻すとこう言いました。
「そうなんだ。殺す」
殺すて。
「死ぬ時はダイイングメッセージ残してください」
「え……。『さくらば』とか、そういうのは」
「そういうつまらないメッセージだったら、とどめを刺さずに病院に運んでもう一回最初から」
えー。
「長篇は無理でも、短篇は支えられるぐらいのならちゃんと殺すから」
えー。
にこやかな談笑のうちに時は流れ、ようやく
解放次の予定の時間になりました。そろそろ失礼しようかと思っていた頃、どういう流れからでしたか、桜庭さんが言いました。
「吉野朔実さんって知ってます?」
私は頷きました。
「ええ。実は、カバーイラストをその方にお願いしようかという話もあったんですよ」
「そうなんだ。殺す」
……「そういう話があった」でも殺されるのか……。
とりあえず鍵を丈夫なものに交換しようと思います。
ところで、この文章を書いているのは午前三時なんですが、さっきから窓の外でカリカリという音が
(05.07.30)
ハマに行きました
こんにちは。米澤です。
ハマに行ってきました。
ハマと言いますと大抵の方は浜松市を思い浮かべ、そうでなかったら浜名湖のことだと思われるでしょうけれどさにあらず。私が行ったのは横浜です。SF大会でした。
まあ、SF大会に参加する積極的動機があったわけではないのですが、折角近くでやっていることですし、ふらりと足を向けてみたのです。
会場のパシフィコ横浜の最寄駅は「みなとみらい」ということでしたが、私の古い「駅すぱあと」ではみなとみらい駅の存在が把握できません。ちょっと手間取りましたが何とか辿り着き、まずは「蓬莱学園15周年」の企画をのぞいて新城カズマ氏と中村博文氏の話を聞きました。
質疑応答の時間もありましたので「米澤と申します」と名乗って質問し、10年来の疑問を解決することができました。簡単に書きますと、上巻の表紙が下巻の結末を暗示しているがこの構成は著者かイラストレーターかどちらの意図に基づくものですか、という質問だったのですが、答えは「上巻のイラストを描いた段階では下巻のゲラ(まあ、原稿のことです)は出ていなかった。暗示は意図的なものではなく、偶然」というものでした。
なるほど言われてみればもっともなことです。
次は「『立喰師列伝』を語る」を見ようかと思っていたのですが、その前にどんなことをやっているのかちょっと覗いてやれと入った「電撃文庫の15年を振り返って」で思わぬことになりました。なぜか、パネリストの席に座ることになったのです。
米澤穂信として来たつもりは全然なかったので、お茶を濁す程度の話しかできませんで残念でした。
折角なので、この場を借りて一つ電撃文庫がらみの話題を書いておきましょう。
『ブギーポップは笑わない』(上遠野浩平)という作品がありますが、実は『ブラックロッド』(古橋秀之)の中に「ブラックロッドは笑わない」という章があるのです。なかなか魅力的かつ独特な響きの言葉ですので、偶然かぶったとは考えづらい。おそらく、なんらかの共通した元ネタがあるのでしょう。
お二人の作風から考えると、海外SFか洋楽か、どちらかだろうと思うのですが。
さて、喉が渇きましたので会場を離れ、喫茶コーナーへ行きました。
近くで大規模なイベントが開かれている割に意外と客は少なく、丸テーブルを囲んでいる二人だけでした。グレープフルーツジュースを頼んで適当な席につき、なんとはなしに先客をうかがうと、さっきまで「電撃文庫」の企画で同じテーブルについていた上遠野浩平氏だとわかりました。
先ほどはどうも、とご挨拶すると、上遠野氏とご一緒されていたのはミステリ関係の方だと紹介していただけました。思わずミステリの話に没頭してしまいましたよ。SF大会で。一時間ほど。二時間だったかも。
ひとしきりミステリ話をいたしまして、ではと上遠野氏とお連れの方が行ってしまわれると、いつの間にか隣の席に二人新しい客が座っていました。
鶴田謙二氏と、その担当編集氏でした。
まあ、その……。
こういうことです(念のために書いておきますが、これを頂いたのはSF大会の会場からは少し離れた場所です。会場内では、混乱を避けるためサインを要求する行為は禁止されています)。
思わず、「『forget me not』のファンフィクション書きます!」などと口走ってしまいました。
その後、対談の打ち上げに、なぜだかご一緒させていただくことになりました。私は本当に無関係なひとだったのに、なんだか申し訳ないことではありました。
終電間際の鈍行で、色紙を胸に、のんびりと帰ってまいりました。
(05.07.20)