2007年前半
こびとです
感謝会です
好きでした
話しました
限界です
なぜならです
起きていられます
飛びました
敵防禦強力です
癒しです
小咄です新
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小咄です
 こんにちは。米澤です。

 先日、ちょっと体調不良に陥りまして、仕事の予定をいくつか調整する必要に迫られました。出版社さんに電話して、担当編集者氏に説明します。

 まずはA社に、
「すいません、ちょっと胃が不調で、食べ物は粥しか受けつけないんです。そういうわけですので、今度の会食は延期にしていただけませんか」
「そうですか。それは大変ですね。ではまたご連絡します」

 次はB社に、
「すいません、ちょっと目が不調で、パソコンのモニタが見られないんです。そういうわけですので、今度の締切は延期にしていただけませんか」
「そうですか。それは大変ですね。ではまたご連絡します」

 すると翌日。養生中の私のもとに、A社から宅配便が届きました。
 なんだろうと思って受け取って、箱を開けてみると、中身は梅干と鱈子でした。手紙も添えてありました。
『お粥には、梅干がよく合います』
 私はふと、人の優しさというものについて深く考えました。一方B社からは原稿用紙が届きました。
(07.06.30)
 
癒しです
 こんにちは。米澤です。

 どんな険しい山でも歩き続ければ越えられないということはなく、どんなに暗い夜でも明けないということはありません。
 そうです、私もとうとう、一つの山を越えたのです。

 ところで、「どんな山でも越えられる」「どんな夜でも明ける」ということは比較的広く知られておりまして、実務上でそれ自体が問題とされることは、あまり多くありません。重要なのは「いつ越えられるのか」「いつ明けるのか」。制限時間の方です。
 言い方を変えると、一仕事終わりましたが締切過ぎててごめんなさい。


 さて、そんなハートブレイクを癒すために、魚介類を間近に見ることにいたしました。
 ハートブレイクしたのは編集者さんであって私がやったのはリミットブレイクのような気がしますが、まあ、気にしないことにしましょう。

 私はもともと山の民ですので、海にはあまり慣れていません。魚類といえば近所で泳いでいた鮎や鱒や鰻のことで、海の魚介類は切り身でお醤油を連れて泳ぎまわっているものと思っておりました。
 そんな謬見を改めるべく、鎌倉の水族館に行ってきたのです。

 ちなみに本命はクラゲです。いいですよね、クラゲ。

 海生脊椎動物と無脊椎動物を鑑賞し、久々に「ああ、部屋の外にも生命は広がっているんだなあ」と悟りを開き、この悟りの記念にと、なんぞ土産を買って帰ることにいたしました。
 あれこれと物色して、ふと目に付いたのがガチャガチャ。ええと、正式名称は何と言うんでしたっけ、ガチャガチャですよ、ほら、あれのことです。
 商品は、海産物……じゃなくて、海の生き物の精巧なフィギュアでした。

 私は、それを買うことにしました。
 アザラシやペンギンの愛らしい姿が、まったくインテリアのない私の部屋にも、ほんの少しの潤いをもたらしてくれるのではないかと思ったのです。
 あるいは、イルカもいいですね。タツノオトシゴなんてのも面白い。見れば、マンボウが当たることもあるようです。私の部屋の小さな作業机の上に、間の抜けたマンボウのフィギュアが一つ。それは確かに、ささくれ立った心を穏やかにしてくれそうです。

 期待というよりときめきを込めて、私はガチャガチャを回しました。




 その結果がこのザマです。

【コウモリダコ】
(学名:地獄の吸血イカ)


 よく見るとこのフィギュアシリーズ、「監修:荒俣宏」とのこと。
 お、おのれ、計ったな!

 ……もういいです。
 もう癒されなくていいですよ、私。
(07.06.20)
ちなみに買ったカプセルには、コウモリダコのほかにもう一つ、海生生物のフィギュアが入っておりました。
それが、これです。

【オオグソクムシ】


漢字では「大具足虫」だと思われます。

警告します。
2007年6月20日現在、「オオグソクムシ」でgoogle検索してトップに出てくるのは(節足動物が苦手な人にとっては)グロ画像です。
 
敵防禦強力です
 こんにちは。米澤です。



偵察兵米澤)「失探! 撃墜予測地点に敵影確認できません!」

将官米澤)「逃げ切られたというのか、馬鹿なッ」

副官米澤)「我が方の完全な奇襲だったはずだ。充分な攻撃を加えた。見ろッ、地形までもが変わっている」

偵)「しかし現に、敵の姿は!」

副)「落ち着けッ。近隣に遮蔽物はないか? よく探すんだ」

偵)「遮蔽物多く視界は不良です。しかし位置関係から考えて、遮蔽物の間に墜落したとは思われません」

将)「あれだけ被弾してもなお、墜落地点から遮蔽物地帯まで移動したというのか」

副)「くそッ! 化学中隊は何をやっているんだ! あれだけの攻撃を加えて撃墜できんようなら、遠距離化学攻撃ではヤツらは倒せんというのか!?」

将)「トラップも完璧だったはずだ。それを潜り抜けて……」

偵)「捜索を続けますか?」

将)「……いや、引き上げろ」

副)「何ですとッ。敵機を目視していながら、諦めると申されるかッ!」

将)「捜索は続ける。だがいまは、それより先にするべきことがある。食料庫封鎖! 廃棄物処理施設封鎖! 兵站を守れッ」

副)「くっ」

将)「早くしろ、コーヒーも飲めなくなりたいのか!」

副)「む、無念ッ。了解、食料庫閉鎖!」

将)「トラップの発動に期待する。……白兵戦もありうる。準備はしておけ……」



偵)「静かだ……。こんなに静かな森の中、本当に敵は潜んでいるのか? 俺が見たのは幻じゃなかったのか?
 いや、俺は見た。堅牢な装甲、高い機動力。どれほど普段通りに見えても、既にここは、ヤツらに侵略されている……」



「コンバット」、敵勢力浸透の阻止に失敗!
「水性コックローチS2F」命中、敵機撃墜を果たすも戦果確認できません!

 総員、「丸めた新聞紙」を装備。警戒態勢を維持せよ。
(07.05.30)
カサ...
 ...カサカサ...
 
飛びました
 こんにちは。米澤です。

 気息奄々のPCをだましだまし使いながら、「発刊予定がズレたのはこの原稿のせいだ! この! この! 終われ!」とがこがこ書いておりましたが、今日になって妙な違和感が。
 なにがおかしいのだろう、としばらく悩んでおりましたが、「よねざわほのぶ」を変換して「米沢保延」になった時点で気づきました。

 辞書データが飛んでいます!

ちたんだ→地単だ
おさない→小山内

 ああ、完全にだめですね。辞書ツールを見たところ、確かに壊滅しています。気心が通じていたはずの変換がまったく成立しないこのアホさ加減は、さながら海賊の陰謀でデータが飛んだラジェンドラ。
 データが残っているのは「あずまや→四阿」だけ。なぜあずまやが? というか四阿がデフォルトで入っていないMS-IMEはいかがなものかと思います。そろそろATOKでしょうか。

 それにしても小説のデータでなくてよかったです。
 データが無事だったお祝いにスニーカーを買ってきました。いままで使っていたものが、底に穴が開いたので。お祝いでもなんでもなく生活上の必要行為ですね。そうですね。
(07.05.20)
まめちしきー。

「キオスク」ってなー、トルコ語で「四阿」のことなんやでー。
せやからな、「キオスクは駅の中 そんなの知ってる」と歌ってる歌はな、嘘やないけど真実を十全に言い尽くしたとは言えんのやでー。
 
起きていられます
 こんにちは。米澤です。

 ようやく、起きていられるようになりました。
 いや、まったく、ひどい目に遭いました。といいましても何のことはありません、多分風邪だったのでしょうけれど。
 酷いめまいに加えて胃をやられ、立てばくらくら、寝ればむかむか、これはどうしたものだろうかと真剣に悩んでおりました。一番楽な姿勢は中腰だったんですが、さすがに、ずっとそうしているわけにもいかず……。
 いま思えば、体調不良の兆候があった時点で「ここで倒れちゃいられねえ! 体力つけるぜ!」と意気込んでアナゴ寿司(近所のスーパー謹製・500円)なんぞを食べたのが、胃のコンディションにとどめを刺したのでしょう。素直におかゆにしておけばよかったです。

 ……ああ、そういえばこの十日間の間に、ゴールデンウィークがあったんでした。
 大方の予想通り、なにもありませんでした。書いていただけです。
 短篇用の資料を求め、うっかり埼玉県の図書館まで行ってしまうところでしたが、県境まであと数百メートルというところで踏みとどまりました。探偵小説芸術論論争の主役の一人の本が、まさかこれほどまでに置いてないものとは思いませんでした。
 世は無常です。


 一つ、ご報告があります。
 今後の発刊予定が少しずつずれてきました。

 詳しい事情は後日ご説明いたしますが、端的に言いまして、〈古典部〉シリーズ短篇集の発刊が早まり、「書下ろし長篇」→「〈小市民〉シリーズ」→「〈古典部〉シリーズ」の予定だった順番が入れ替わりそうなのです。
 今後、どのように拙作をご提供していくか、関係各位とご相談の上、一度練り直さなければなりません。書下ろし長篇が直近であることは、動かないと思いますが……。
 方針が定まりましたら早急にお知らせいたしますが、それまで発刊時期についてははっきりしなくなってしまいます。すみませんが、ご了承いただければと思います。
(07.05.10)
 
なぜならです
 こんにちは。米澤です。

 ええと、いま短篇を書いておりまして、これを編集部にお送りして掲載していただけるということになれば、「お知らせ」が更新できるんです。掲載の可否がわかるまでは、媒体、題名など「お知らせ」することができません。なぜなら世の中には「ボツ」ということもありますから。
 ですが、いま短篇を書いておりまして、落ち着いて近況報告ができる状況ではないことも確かです。目標は二日で80枚。

 二日で80枚。
 ……ああ、なんだか、昔のことを思い出してしまいましたね。

 まだ学生だった私は、ある日、短篇を書くことを思いつきました。
 思い立ったのではありません。思いついたのです。
 そして私は一心不乱に書きました。狭い六畳間で、昼夜を分かたず書いたのです。

 あれ? 緯度経度こそ違えどいまも六畳間で、季節こそ異なるものの昼夜を分かたず書いてますね。まあ、そんなことはともかく。

 短篇は書きあがりました。それは学生にありがちなただ青春をぶちまけようとしただけのもので、まったく無様な出来でしたが、私は不出来を自覚しながらも、その短篇を嫌うことが出来ませんでした。


 私が書いた初めての短篇。
 長さは400字詰原稿用紙換算で80枚で、かかった時間は二日間でした。
 その速度は驚異的で、こんなに一気呵成に書ける私は、もしかして特別な存在なのではと思いました。
 いまでは、私は一応小説家。短篇のペースは、一日80枚。
 なぜなら……。

 このぐらいなら、よくある話だからです。

 ヴェルタース・オリジナル。
(07.04.30)
いくつか嘘があります。
学生時代二日間で80枚の短篇を書いたことは事実ですが、だからといってそれが特別だとは思いませんでした。速筆の方の話は、いろいろ目にしていましたから。
そして、現状で一日80枚がよくある話というのも嘘です。だいたい、お約束した日までは一応まだ間がありますし。……あるよね(カレンダーを見る)?


それはそれとしても、近況報告が二回連続でCMネタというのもここ最近の生活濃度の薄さを物語るようで、なんとも、嫌ですね。近況報告に使えそうなネタはあるんですが、ちょっと、心理的余裕がなくてすみません。
 
限界です
 こんにちは。米澤です。

 ミステリは終わりません。ロジックとトリックの競演はマジックを交え、果てしなく続くのです。

 ……そろそろ、終わってくれませんかね。

 いえね、単純に、原稿が長くなって終わらないんですよ。私は最後の瞬発力で勝負する差しの脚質ですが、ちょっと今回、ラストスパートが長すぎます。「とっちらかって収拾がつかない」「書こうにも書けない」というわけではありませんから、閉塞感は全然ないんですが。
 夜明けにふと、真顔で「『ハムリンズのうた』の『ハム』を『シャム』に変えると公共電波に乗せられないなあ」と考えてしまうぐらいで、まだまだ大丈夫です。

 限界なのは、私のPCです。
 作業の進捗状況の遅れをPCの不調のせいにするのは、あまりにありふれた常套手段です。ですので私も、「PCが壊れかけているので原稿が終わらない」とは言いません。実際、作業そのものは充分可能なのです。

 起動後、あるいはサスペンドから復帰後、遅かれ早かれ100%の確率で電源が落ちます。電源が落ちる直前、何かの回転音がして、モニタが暗くなるのが特徴です。
 静電気が溜まったのかと思って放電を繰り返しますが、当座はしのげても、本質的解決にはなりません。現在、作業を中断するごとにコードを抜き、内蔵バッテリーを取り外している状況です。こうしても、放電時間が短いとやはり電源が落ちます。

「起動する→しばらく作業する→落ちる」の一連の儀式が済んだあとの再起動以降は、問題なく動きます。ですから、作業に致命的な影響を与えているわけではないのですが……。
 こうも頻繁に電源が落ちてると、HDが心配なのです。ここで全データ消失となったら、あたしゃ崩折れますよ。前のめりに。

 上梓までもちますように……。
(07.03.30)
 
話しました
 こんにちは。米澤です。

 55年の歴史があるミステリファンクラブSRの会のお招きを受け、記念大会で座談会をして参りました。
 目の前で紀田順一郎氏のぶった切りを見られましたので、それで帰っても良かったようなものですが……。

 お相手は道尾秀介氏。昨年最も注目されたミステリ作家、と言っても過言ではないでしょう。実はこの座談会の前にも、仕事上の関係で二、三度お会いしたことがあるのですが。
 共通点がないんですな、これが!

 私は、実際に書くときにそこまで考えているかどうかはともかくとして、人に話すときには理論派的な立場を取ります。ですが道尾氏は、いわゆるオーラのある小説家。タイプが違います。
 どうしようと随分悩んだものでしたが……。違いしかないのなら、その違いを楽しんでもらうしか他に手はないでしょう。

 というわけで、SRの会会員の方に司会をお願いし、ある質問に対して私と道尾氏がどう答えるかという形で話が進みました。
 感触は悪くなかったと思いますが、いかがでしたでしょう。ご参加いただけた皆様に楽しんでいただけたことを、願っています。

 記念大会の後には、レセプションもありました。
 その席では、思わぬ祝福を受けたのですが……。
 驚きのあまり、しどろもどろになってしまいました。アドリブに弱いようでは、まだまだ舞台芸人の道は遠いですね。
 今夜は帆立と青梗菜のクリーム煮に失敗しました。料理人の道も遠いです。

 帰り際に気づいたのですが、「日曜の渋谷でイベントの主役の一人」だったんですね。
 すげえや。端倪すべからざる運命は実にどこに落とし穴の口を開けているか以下省略

 ご参加くださった皆様、そしてSRの会の皆様、ありがとうございました。

(07.03.20)
 
好きでした
 こんにちは。米澤です。

 どうもご無沙汰しておりました。
 この一ヶ月、私とて別に、遊んでいたわけではありません。ミステリを書いていたのです。
 つまり近況を報告しようにも「ミステリを書いていました」としか書けないわけで、これははなはだ、困ったことです。
 書けることといえば精々、青色申告の書類作りが大変に面倒だったことと、図書館の一件ぐらいです。青色申告がめんどくさいのは当たり前のことですから、ここは一つ、図書館の件について書いてみましょう。

 内容的には書くことがはっきりしていて、「力」のある文章が必要とされているわけでもない今回の仕事、本来ならば「詰まる」ということはあり得ません。ですので、私も、詰まっているわけではありませんでした。ただ単に、書いても書いても終わらないだけです。
 n百枚ごときを遠い道程と感じてしまうとはまっこと不甲斐ないことではありますが、確かに、一部の新人賞では規定超過で投稿不可となるぐらいは書いたのです。それでもミステリ特有のある現象(まあ、もったいぶる必要もありません。「解決篇がページを食う現象」です。お気づきですか? 『夏期限定トロピカルパフェ事件』の何割が、解決篇で出来ているか)ゆえに終わりを迎えられない私は、苦心の末、転地療法を試みることにしました。
 生まれ在所の図書館に篭ることにしたのです。

 その図書館は、我が旧き友人も建設に参加した、非常に新しいものです。前に書いたことがあるかもしれませんが、個人ブースが用意されていて電源も完備、照明も明るく冷暖房も丁度いいという、これは小説を書くために作られたのかと思うような場所なのです。現住所の近所の「ページをめくる音がうるさい」と怒られるような図書館と比べれば、煉獄と地獄ぐらいの差があります。
 私はそこで、必死に人を殺しておりました。あ、今回の仕事では殺人が起きます。
 なにせ締切は遥か時の彼方、それも後方に彼方、私もさすがに焦ります。もともとさしてセンスがあるわけでもない身なりも一層見苦しく、蓬髪振り乱し目は爛々と血走って、その姿はさながら幽鬼かリビングデッドか。朝っぱらから夜更けまで、ひたすらにノートPCに向かっておりました。

 さて、そうして何日が過ぎましたか。呻吟の為、書架の間を徘徊していた(迷惑行為だ……)私は、突然にせすじをぴんと伸ばしました。
 書架の間に垣間見えたその姿。お前は本当に他人の姿が視界に入っているのかと問いたくなるような唯我独尊の目をした人物。嗚呼、そのひとは紛うことなく、我がはつ恋のひとなのでした。

 思えば出会いは中学時代のことでした。そして、私は高校に入学したとき、そのひともまた同じ高校に入ったことを知ったのです。思い出深いのは二年の文化祭、ひとけのない渡り廊下で(中略)。

 ですがあれから十数年。私もこれで、一応は仕事をしている身です。異性に対し無闇矢鱈な似非コンプレックスを抱くようなことをしていては書店員も小説家も務まりません。たとえば大学の日の暮れた研究室で(中略)。いまさら連城、じゃなかった恋情の一つや二つ、それも埃をかぶって化石化したようなそんなものに動揺することなど、あり得ないのです。速攻逃げました。
 ……あれ?
 逃げてどうする逃げて。
 確かに私は、そのとき、幽鬼かリビングデッドのような姿をしておりました。しかし相手は豪傑です(もっともそれは上辺のことで、内には繊細微妙なこころを持った(中略))。私は、そこまで姿形を羞じているわけではありませんでした。

 相手が私のことを憶えているだろうか、と不安だったわけでもありません。もし忘れているなら(忘れていそうだな……)、思い出してもらえばいいだけのことです。「やあ、奇遇だね!」で済む話ではないですか。
 問題なのは。
 問題なのは……。
 タ、タイミングです。「しかし米澤はおどろきとまどっている」のです。「The monster surprised you!」です。モンスター? 失敬な! あ、いや、でも、モンスターかも知れませんなぁ。

 いや、さすがに地団太踏みましたよ。
 あれから十数年。相手とて、結婚している可能性があるわけです。いかに遠い昔の錆びたような記憶があるからといって、声をかけることすら躊躇うとは、わたしゃ小学生ですか(錆びた記憶に基づいているだけに、今日的な行動が取れなかったとも考えられますが)。
 大体、そいつは肝心なときに不意に姿を現して、私の作業を邪魔するのです。昔っからそうでした。たとえば客足の途絶えた郊外型書店で淡々とプロットを練っている最中、たった一人客が入ってきたかと思えば(中略)。
 別に「ここから恋の物語! part2」と思っているわけではありません。ただ単に、久闊を叙したいだけなのです。何ほどのことでもないではありませんか。
 そう思って、私は態勢を整え、個人ブースに入って読書を始めたかの人に、そっと近づきました。

 書架に隠れて機会を窺う私は、自分のすぐ隣に、丸谷才一『横しぐれ』があるのを見つけました。
 おお、懐かしい。これは、本当に、好きでした。
 ですが読んだのは相当に昔。どんな話だったかは憶えているものの、「どんな話」というのは要するに粗筋に過ぎず、醍醐味はやっぱり文章そのものにあるわけです。その醍醐味を味わいたくて、私はふと、それを手に取りました。
 そうしますと、やはり、良いわけです。私には文学的素養というものはありませんが(「咳をしても一人」を山頭火だと思っていたぐらいです)、それでも、香気を感じ取ることぐらいはなんとかなるわけでして、情報が詰め込まれているだけのような後半がいったいどうしてこれほど面白いのか、本当に始末に終えません。
 四国、乞食(「こつじき」と読んでください)、襤褸、雨、父、鉄鉢、そして消極的自殺……。
 しばしうっとりし、腕が痺れるぐらいまでそれを読んだ後、私はふと我に返りました。うっとりとしている時間は残されてはいないのでした。東京では某社の某編集者が、そろそろ私のことなど忘れ始めているでしょう。待っていてくださる読者も、いてくれるかもしれないのです。なんとか一刻も早く書き上げねば。

 そうして私は、丸谷才一を書架に戻し、気の利かぬ筆を振りまわす作業に戻ったのでした。
 もうちょっとです。がんばります。
(07.03.10)
 
感謝会です
 こんにちは。米澤です。

 恒例の、角川書店新春感謝会に行ってきました。
 もう、五回目ですかね。だいたい、わかってきました。角川新春感謝会の奥義というものが。
 それは、以下の一言に要約されます。

食えると思うな

 会場となるホテルは、毎年豪華です。去年は東京ドームホテル、一昨年は赤坂プリンスホテルでした。今年に至っては椿山荘です。
 ところが、さすがに大角川。この感謝会は第二編集部(スニーカー、コミックエースなど)の主催なので、基本的にはそちら関係の人間しか呼ばれないはずなのですが、参加者は千人を軽く越えてしまいます。
 千人規模となりますと、いかに上等なホテルでも、容易に収容できるものではありません。会場に入るだけで精一杯、バイキング形式のテーブルには長蛇の列が並び、まして飢えた漫画家・アニメーター・小説家の群れですから、豪勢な食事もたちまち食い尽くされてしまうのが常なのです。
 そのあたり、さすがに私もわきまえました。ですので、今年はちょいと立ち食いそばでも食べてから行こうと思っていたのですが。
 物事はなかなか計画通りに進みません。時間に余裕はあったのですが、とある理由でそば抜きでの感謝会参加となりました。こうなれば仕方がありません。生存競争に突入するのみです。

 ともあれ、その、実はですね。
 年を追うごとに、私はこのパーティーにおいて、手持ち無沙汰になっていくのです。
 今年はまったくこれといったことをせず、行列に並んで食事を得て多少人心地をつかせたあとは、ただ漫然とぶらぶらするだけになってしまいました。
 まあ、こんな機会でもなければ椿山荘にはなかなか入れないでしょうから、庭園と内装をたっぷり拝見してきました。それで充分、楽しかったです。
 参加者が千人いても、壁の花になる人はなるもんですな。

 ちょっと驚くようなこともありました。
 人いきれに飽いて、昨年の角川書店第二編集部のおしごとを一堂に会した見本コーナーで、のんびりと見物をしておりました。スペースを広く占めているのは、なんといっても「ハルヒ」でした。
 おおすごいもんだなぁ、などと思っておりましたところ、ふと気がつくと、隣に谷川流さんがいらっしゃいました。
 おお原作者だ、などと思っておりましたところ、その谷川さんに挨拶に来られた方が、なんと井上伸一郎氏。つまり、角川書店現社長です。
 おお社長だ、などと思っておりましたところ、隣にいた私も、その場の流れで名刺を頂いてしまいました。きょ、恐縮です。ほそぼそとミステリなぞを書かせていただいております、米澤と申します。

 ところで。
 角川の新春感謝会の司会は、毎年男女一名ずつ。お二人とも、アニメがメインの声優さんです。私は基本的にアニメには疎いのですが、それでも今年の司会の声には聞き覚えがありました。声だけで覚えてもらう職業というのも、なかなか大変なものだと感心しきりでございました。
 もし来年も行くことがあったら、今度は名前ぐらい、憶えて帰ってくることにします。
(07.01.30)
「原作者」という表現に引っかかってリンクされることがあるようですので、補足しておきます。

私が谷川さんと会ったのは、見本コーナーの前でも、特にアニメ部門、キャラクターグッズ部門の前でした。近くにあったのは『時をかける少女』関連の商品でした。より具体的には、『涼宮ハルヒ』のアニメ広宣で使われた学校制服が展示されている前だったのです。
「ははあ、メディア展開ということになると、こんなものまで作られるんだなあ」と感心していたところでしたので、谷川さんご自身を「原作者」と見たということです。

私の場合で言いますと、「Gファンタジー」誌『春期限定いちごタルト事件』を読んでいる方の前を私が通りがかった場合、「あ、原作者だ」と思われることでしょう(私のことを知っていれば、ですが)。そういうことです。

私は谷川流さんの実力、古今の典籍に通じる博識、小説家としての批判精神、そしてそれらを誇示しない人柄を尊敬しています。おかしな誤解を受けてはつまりませんので、念のために上記補足します。
 
こびとです
 こんにちは。米澤です。

「靴屋の小人」という童話があります。
 ドイツの、とても心あたたまる話です。非常に有名ですので皆さんご存知のことと思いますが、一応念のため、ざっとあらすじだけなぞっておきます。


 むかしむかし、あるところに、一人の小説家がおりました。
 小説家は小説を書くのが仕事でしたが、ときどき、約束の日までに書き上げられないことがありました。
 ある日、連日の徹夜仕事に疲れた小説家は「ああ、誰か助けてくれないかなあ!」と嘆きながら、つい、ノートパソコンを広げたままうとうとしてしまいました。
 ところが、小説家が目を覚ますと、白かったワードファイルにびっしりと文字が書かれているではありませんか!
 きっとこれは眠っている間に小人が書いてくれたんだ。小説家は小人さんたちに感謝して、もう一眠りすることにしましたとさ。
 めでたしめでたし。


 ああ、いい話です! それにしても、子供の頃から疑問だったんですが、どうしてこの話が「靴屋の小人」なんでしょうね。
 類話に、うとうとしている間にプログラムが組まれバグが取り除かれていたというものがあるそうです。友人から聞いたことがあります。その友人はプログラマでした。
 関係ありませんが、こういうことがあった場合、小人の姿を見てしまっても別に小人は逃げません。どこぞの機織り鶴とは心の広さが違います。ですが、彼らは一般に、衣服を与えられると姿を消して二度と現れない(もしくは悪戯を始める)という習性があるそうです。感謝はしても服だけは与えないのが、彼らを長くこき使うポイントです。

 さて、どうしてこんな話をしたかといいますと、もちろん、私のもとにも小人さんが来てくれたからです。

 私は既に、部屋から東には顔を向けられない状況になっています(私と仕事をしてくださる出版社は、おおむね、私の部屋より東に位置しています)。
 ある日、夢と現のさなかをしばらくさまよったのちに正気づくと、デスクトップにテキストファイルが一つ、増えておりました。
 作成した憶えのないテキストファイルにしばらく戸惑いましたが、「新作プロット」というファイル名を見るに及んで、これは小人さんが力を貸してくれたに違いないと気づいたのです。
 目下の仕事に汲々とし、なかなか新作プロットにまで手がまわらない私を、小人さんたちが助けてくれたのです! ありがとう、小人さん!
 私は喜び勇んで、ファイルを開きました。

 どうやら話は時代物のようで、それも戦国時代を舞台にしているようです。
 私が時代物? と思いながら読んでいきますが、大筋において、話はまとまっているようでした。
 起承転結も鮮やかに決まり、登場人物の心性も描き甲斐がありそうで、読ませどころもはっきりしています。クライマックスの合戦に向けて上手く盛り上げていくことができれば、割といいラストを迎えられるのではないでしょうか。

 しかし、残念なことに、やはり所詮は小人さんのやることです。
 プロットにつけられた題名を見て、私はノートパソコンに突っ伏しました。
 そこには、こうあったのです。

新作プロット
『大長編ドラえもん のび太と石山本願寺』

 小人さん小人さん。
 遊んでないで、貴重なリソースは目下の仕事に投下してくれませんか?
 いまから一眠りしますから、その間にちょっとでも、ほら、ねえ?
(07.01.20)
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